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interview with 中川直樹(knot代表)

デザイニングガイドマップからのスピンオフ企画として、紙面上では伝えきれなかった街や場所の魅力を、デザイニング展サポータースタッフがそれぞれのまちの紹介者にインタビューに伺いました。まちの紹介ページと合わせてお楽しみください。


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人と人、人と物を結ぶ

 
interview with 中川直樹(knot代表)

四年前に長浜にやってきて洋服から小物などを取り揃えるknotというお店でバイヤーをしている中川直樹さん。「良いと思えるモノを永く使っていただく」をコンセプトにファッションというより日々の生活に欠かせない道具として伝えていくknotの代表中川さんにインタビューさせていただいた。多くの質問に自身の思うところを熱く語っていただいた。


取材:木下寛徳、山路祐一郎 撮影:箱島 崇史 (デザイニング展サポータースタッフ)
以下_ 中川直樹:中川 Designing?:D


D 最初に、アパレル業界でやっていこうと思った理由を教えてください。

中川 もともとはサラリーマンで営業をしていたんですが、商売をはじめたくて、その中でも洋服がとても好きだったのでどうせ売るなら好きな物を売ろうとこのアパレルの販売を始めました。大学にいた頃、周りの人がとてもお洒落でそれに刺激を受けたのもありますね。続けるためにはやはり「好き」じゃないとやっていけないです。

D ファッションに興味をもちはじめたのはいつ頃になるんですか。

中川 初めて古着を買ったのが中学の二年生の時です。ジーパンを買いました。このときは洋服を売ることなんて考えていませんでしたね。趣味に留まっていました。アルバイトをしてお金を貯めて買い物に行くというのが本当に楽しみでした。

D 仕事を始めてからのことについて質問させていただきます。普段心がけていることなどあったら教えてください。

中川 ただ売るというのではなく、質のいいものをお客様に伝えるということが大切だと思っています。良いと思えるモノを永く使っていただきお客様が満足していただけるように私達はバイヤーの仕事をさせていただいています。

D このお店のいいと思うところはなんですか。

中川 私が以前に買い物よくしていた時の話なんですけども、昔はWEBなどのメディアもなく広告などを見て歩いて店を探し、店を見つけ、貯めたお金で洋服を買うというのが買い物でした。昔は手間をかけてたんですよね。もはやそのプロセス全部が買い物だと思うんです。
しかし、今はそうではない。でもこの長浜にあると思うんです。この場所は、少し探さないとわからない、さっと立ち寄れる所にない。お客さんがお店を探すというプロセスを経てお店に入るからやはりちゃんとお店の中を見るんです。わざわざ来たから見てもらえるんです。だから私達もその分しっかりと出迎えて接客し伝えるんですよ。来ていただいたお客様に誠意をもって対応するところがいいところだと思っています。

D この福岡は昔と違ってセレクトショップも減ってきてお洒落というものに対して停滞している兆しが見えます。また、ファストファッションが流行して自己表現の意識の低下が見られる今、洋服を売る人としてこの街において考えるところはなんですか。

中川 私の考えなんですが洋服にはファッションと道具としての二面性を持っていると思うんです。ファッションとしての高揚することも大切であるし、いいことだとも思っているんですが、それだけでは道具であることがなおざりになってしまうんですよ。だから私は道具であることに観点をおいて良いと思えるモノを永く使っていただくというまっとうな事をしてこの価値観を伝えていくんです。そしてお客様が満足していただければいいと思っています。使いやすさや物持ちがいいということも洋服においては重要なことですよね。


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D この長浜エリアの印象についてお聞かせください。

中川 お店を始めたのは4年前で、このエリアに来ることはそれまでほとんど有りませんでした。
お店を出すきっかけになったのは、FUJITOの藤戸さんです。彼がこの同じビルにお店を持っていて、そこで一件空いているという話を聞いて。マーケティングは全くせず、このビルの通りの雰囲気で決めました。そのときの、これだけ天神のすぐ近くなのにゆっくりした時間が流れている街が有るんだ、というのが第一印象です。

D かもめの広場や美味しい食堂等、実は暮らしてみると気付くんだろうな、という魅力も多いかと思います。

中川 どの街もそうなのかもしれないけど、結局表の部分しか知らない人は沢山いるだろうし、特に長浜エリアっていうのは漁師の街のイメージが強くて中々行く機会も少ないと思うんです。でも実際は毎月市場が市民開放デーをしていたり、食べ物屋の名店も多いし、来てみての発見は多い街でした。

D そのギャップは多い、と。

中川 ギャップは有りますね。結構オフィスワーカーが入るビルや住宅も多いですし。
特に意外だったのが、大濠公園、浜の町公園、西公園、と言った公園や小学校等のパブリックな場所が多かった事です。そんなオープンな雰囲気が良く溶け込んでいる印象も有ります

D 長浜は漁師の街や長浜屋台等、歴史の積み重ねの有る街ですが、最近ではそこにある魅力をまた中川さん達が新しい世代に向けて掘り起こしてくれている様にも見えます。

中川 そういう動きはして行けると思うし、して行きたいとも思います。最近だとかもめのグリルが開催されたりと、同世代の動きもありますし。僕らは昔からここに居るわけではないですが、ただこの街にはこれからの可能性を強く感じています。

D では、デザイニング展で長浜を訪れる方におすすめしたいお食事どころはどこでしょう?

中川 お昼なら冊子にも載せている魚がしさんの定食ですね。(14時までなので注意してください)それ以外なら市場会館のおきよ食堂や中華料理屋の万里(担々麺が美味しいです)でしょうか。夕方や夜に来られるのならknotのすぐそばのつどいさんへ。あと、だぼも有名ですよね。そういった海鮮系は是非。

D 今回中川さんはトークショーを開催されると言う事で、F/styleの五十嵐さんと星野さん、Doekの幸田さんと溝口さんをお迎えされますが

中川 F/styleさんから言うと、彼らは地場産業と伝統工芸の協業からものづくりをされていまして、彼らは無駄なデザインをしないんです。と言うのは、素材の元からの魅力が活かせる企画を作り手さんに投げてくれるんですね。だからあくまでも生地屋さんや作り手さん達の持ち味が発揮できるものづくりを目指していて。そして久留米のDoekさんも似たような考え方をされています。溝口さんは『靴に対してあえてデザインしなかった』と仰っていますが、それは久留米絣の良さだったり、靴の製法の良さを知って頂く上で、そこにデザインというものが必要ないんじゃないかと言う事で、最低限の仕様でしか作っていないからなんです。だから、環境は違うけれど似たような地場産業を使ったものづくり、デザインしすぎないものづくりについてこの二組がどんなお話が出来るのかな、という事を質疑応答形式で聞いてみようと思います。『ものってなんだろう?』、『デザインってなんだろう』という根本の部分とは僕らも道具としての洋服、ファッションとしての洋服といった所で絡んで行きますし、そこから何か伝わればと思っています。


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D (少し意地悪な質問になりますが…)Doekのスニーカーが僕らにとってはスタンダードであったとしても、日本中の一般ではニューバランスがスタンダードになってしまうのかもしれません。この、自分にとってのスタンダードが必ずしも誰とも共通の物にはならない可能性と僕らはどう付き合えば良いのでしょうか?

中川 真っ当なことなのかどうかだと思うんですよ。(Doekのスニーカーにも用いられている)バルカナイズド製法は昔は世界共通の製法だったんです。でもそれが衰退していて、その理由は手間が掛かってしまう事でした。手間が掛かる上に多くは作れないし、売れるという保証も無い。そうなると製法はより合理化されて行き、この製法が残すべきだとしても、それが難しくなってしまいます。
そんな現代は、真っ当なものづくりをしているかどうかの目で見たとき、売るためだけのものづくりと思って作ってしまっては、僕は良い物は生まれないと思うんですよね。

D ということは、作り手のものを理解することで、ちゃんと物と向き合って行けると。

中川 そうですね。後は伝統として残していかないといけません。生産していかないと良い作り手さんも残って行けないので。それはF/styleさんも全く同じなんですよね。残すべきところが残る為に、協同してものを作っていく。真っ当なものづくりをしているのかを信じる事が大切なんだと。


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D そういった事を長浜で発信するのは、繁華街のファストファッションやメガブランド有りきの土壌から発信することと比べても印象が変わりそうですね。先ほど有ったわざわざ足を運ぶという様な事ともつながりますし、そこにknotで目指されている事も見えて来そうです。

中川 しっかり伝える事を目指すとき、お客さんの出入りの激しい所ではゆっくり話す事も難しくなりますし、結局は人と人がそこでちゃんとコミュニケーションを取れないと良い物の良さを伝えきれないでしょうからね。だから少しずつでも伝わって行ければいいのかな、と。そしてそんな価値観の人たちを少しでも増やして行ければと思います。


D そんな長浜という場所を意識したり、こうしていきたいという思いはありますか?

中川 街に来ていただかないとこの長浜の良さってわからないですよね。私も四年前にここに来るまではなにも知らなかったし、お店を始めこの土地を知ってやっと良さがわかってきたんです。だから私はこの長浜をもっと知っていただけるよう、足を運んでいただけるように、その手段の一つとしてknotでこれからも頑張っていきたいです。
そもそも、knotという店名の由来ですが、ここ長浜は港付近にあるということもあって海語の速度という意味と結び目という意味をかけています。人と人、人と物、人とこととの結びつきを大切にしたいという思いがこもっています。このお店がお客様と長浜を強く結びつけることが出来たらと思います。


D 最後に、10年後、このまちは、どうなっていると思いますか?

中川 多分長浜は今回のデザイニング展のエリアの中で一番発展途上な街じゃないかと思っています。区画整理で道路が拡張されましたし、このknot入っている建物も古くて建て替えが決まってるんですよね。だからドンドン大きくなって行くんでしょうけど、昔ながらの良さも残して行けたら良いですね。
天神ほど大きな街にはならなくても、古さも有り、新しい物も有る、これまでとは違う街になって行くのではないでしょうか。その中でこれまでの個性は埋もれないで欲しいと思います。


FUKUOKA AREA MAP | E. 長浜・港・大手門エリア
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