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interview with 先崎哲進(デザイナー)

デザイニングガイドマップからのスピンオフ企画として、紙面上では伝えきれなかった街や場所の魅力を、デザイニング展サポータースタッフがそれぞれのまちの紹介者にインタビューに伺いました。まちの紹介ページと合わせてお楽しみください。


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「仕事のこと 事務所のこと まちのこと このさきのこと」

 interview with 先崎哲進(デザイナー)

JR箱崎駅西口からまっすぐ歩いて約3分。先崎さんのオフィスは、交差点の角にありました。道路に面したふたつの壁が大きなガラスになっていて、外からも中からも互いの様子がよく見えます。町との間に隔たりを感じないその場所で、お仕事のこと、町のこと、デザイニング展のことを伺ってきました。

取材:小佐々 撮影:笠原 (デザイニング展サポータースタッフ)
以下_ 先崎哲進:先崎 Designing?:D


ー仕事のこと 事務所のことー

D 早速ですが、今やっているお仕事とどのような経緯を経て今に至ったのかを教えてください。

先崎 元々は一般的なグラフィックデザイナーでした。
広告代理店があって、自分は外注先で代理店からの依頼を受けて作っていたんですが、その枠組みの中でやっていると解決できないことを感じるようになってきたんです。代理店が間に入ることでお客さんの顔が見えなく、本当に望んでいることが分からなかったり、場合によってはデザインによって嘘をつかなければいけないことがあるんですね。よくないものを、いい写真とキャッチコピーで「これ良さそう」と思わせる。そういうデザインの使い方は違うんじゃないかと思って。他にもクリスマスやイベントのディスプレイも作ったりしていたんですけど、頑張って時間かけて作ったのに、終わった瞬間にゴミになるのを見て、本当にやりたいことはこれなのかと違和感を感じていたんです。それから、直接モノを作っている人たちと一緒に仕事をしたい、極力現場と隣り合わせでできるデザインの仕事をしたいなと思うようになったんです。いいものを作っているけど、デザインのノウハウがないために商品として売れてないとか、ちょっと工夫をするとみんなが欲しがるような商品になる、みたいな、そんな人たちの手伝いをできるデザインをしたいなと。デザインを通じて魅力ある商品が世の中に回っていって、それが地域を支える原動力になっていけば、その形が自分の一番の理想ですね。生産の現場は都市部よりも地方にあることが多いので地方がよくならないと日本はよくならない。
そういう想いから地方の人とつながるようになって、今はモノづくりの人たちと直接デザインの仕事をするようになりました。

D 具体的にはどういったものを手がけていらっしゃるんですか?

先崎 たとえば、「furoshiki carry」という、風呂敷をバッグとして使うための革のハンドの商品のブランド作りをお手伝いしました。広島の生産者の方から、自分たちの商品の良さを伝えていきたいということで依頼を受けたものです。瀬戸内海には生地の産地がたくさんあるので、地域のテキスタイルとコラボレーションして生地とセットで売ることで、伝統的なテキスタイル産業にも貢献しつつ、ハンドを作ってる会社の魅力アップにもつながるということでブランドが生まれました。結果、それまでは手芸屋さんで売られていたものが、百貨店との取引に広がり、京都にもお店を出され、最終的には海外展開の夢も広がっています。
他には、大川市で木と食のコラボレーションをテーマにしたブランド「大川コンセルヴ」を生産者と共に行ったり、糸島の醤油蔵をリノベーションした伊都安蔵里(いとあぐり)での商品開発に関わりました。
国の雇用創出事業「ちくご元気計画」の講師として、セロリ産地の商品化や酒造蔵のイベント展開、動物園の写真展企画のお手伝いなども行いました。6次産業に携わる生産者の表現の仕方、販路の作り方をお手伝いしています。直接農家さんやモノを作る人たちといっしょに作りあげていくということが楽しいですね。

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D 箱崎に移られたきっかけと、事務所について教えてください。

先崎 以前は博多・天神周辺で事務所を構えていたんですが、大学の友人である斉藤昌平くんの協力で箱崎の地へ来ました。街の中心から一歩距離をおいたところで仕事をしたいという気持ちがあったんですね。中心にいるとどうしてもその流れに入ってしまうので、ちょっと距離を置き客観的に見れるところでデザインの仕事をしたいというのがありました。それに元々「神社のある町に住みたい」っていう気持ちがあり、選んだのが箱崎でした。筥崎宮という大きなお宮が町の中心にあり、商店街があり、商店街の一角に八百屋と同じようにデザイン事務所があっても面白いよなと思っていたら、この場所に巡りついたんです。
ちょうど、「無名塾」っていう名前の飲食店が閉店して、取り壊して駐車場にするって決まったところでした。ここは街の要である筥崎宮と九州大学とJR箱崎駅につながる道が交差する場所で、立地的に考えるとすごく意味がある場所なのに、この場所が駐車場になる姿が悲しいなというのがあったんですが、斉藤くんの協力のもと大家さんにも快く貸してもらえたので、ここに事務所を構えることにしました。取り壊しが決まっていたため最初は本当に空っぽで何もなかったんですよ。キッチンはおろかトイレもない。そこを斉藤くんや九大生、地元の方、プロにもお手伝いしてもらいながら1年半かけて改装したんです。通りに面しているところも全部壁だったんですが、角にある場所なので街に開こうと、壁を壊して全面ガラスで開放的になりました。コストもかけられないので、たくさんの方から資材を協力してもらいました。もらえるものは何でももらった感じです。お風呂やトイレも(笑)。そうしてやっと今、事務所として使えるようになっています。

D ちなみにこのリヤカーは・・?

先崎 これは元はイベントで使っていたものです。別府でお茶会をしたり、糸島の芸術祭で畑の中でシャボン玉カフェをしたり。おしゃれな柄になってますが、他で出た廃材を利用して作ったんです。今は置き場がなくて、工具置きになってます。ひっぱってまわってるわけではないですよ。写真はやらせです(笑)。

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ー町のことー

D 移り住んで感じた、箱崎の魅力ってなんですか?

先崎 筥崎宮が町の要になり、精神的なよりどころになってると思いますね。そういう町は強いなと思う。廃れてもつながっているみたいな。年齢によって感じることって違うと思いますが、若いときに福岡を転々と移り住んできて箱崎と比べてみると、町の顔ってあんまり見えなかったし、地元意識もあまりなかったと思うんですよ。でも箱崎にはそういうのがある気がする。地元の人も同じ住人とわかると急にフレンドリーになったりするので、昔ながらの村っぽい感じが残っていると思います。ぶらっと歩くと小さな神社で神事が行われていて、風景の中にそういうのが普通にある町ですね。箱崎っていう町自体はそんなに大きくなくて、さらに町の3分の1くらいは九州大学なんですけど、これからここが全部空き地になるんですよね。こんな巨大な空き地が大都市にできることはなかなかないので、そんなタイムリーな時期にいれることも面白いなって思います。

D 箱崎に移ってきて、地元の方の反応はどうでしたか?

先崎 若い人たちが何かしているけど、大丈夫かなと思いながら見守ってくれてる感じですね。作っている最中は「まだできんとねー?」ってずっと言われていました(笑)。イベントしているのに、スペースの半分はゴミや物置だったんですよ。最近商店連合会に加盟したんですが、やっぱり商店街の維持のためにいろいろ考えられていて、若い人たちが入ってくるのは歓迎してくださいました。今までの商店がそのまま存続していくのは難しいかもしれないけど、時代のニーズにあったサービスの商店街に再生されていけば街は楽しくなると思います。自分は箱崎宮で結婚式をしたんですが、ここで着替えて人力車に乗って商店街を通って筥崎宮に行ったんです。そのときに商店街の人たちがみんなでクラッカーを鳴らしてお祝いをしてくれたんです。すごく温かい人たちが住んでいます。何を返していけるかなと考えています。


ーデザイニング展についてー

D 今回のデザイニング展の内容を教えてください。

先崎 今回はこの場所を作るまでのプロセスを展示します。今この場所は、半分は自分のオフィスですが、前のお店の名前をとって「ムメイジュク」という自由に使えるスペースにしているんです。ここを作るのは本当に大変だったんですが、この場所が経済の流れのまま駐車場になってたら生まれなかった場所なので、その記録を展示して町について考えられる場所にしたいなと思っています。
大学の同級生の斉藤君とシェアしてもう半分は町に開かれた場所にしようということで、上映会やトークイベントなども行っています。箱崎のことをまだ分かってないけどお店開きたいという人が、ちょっと試験的にここでお店をしたりとか、いろんな人が自由に使える町の学び舎のような場になるといいですね。

もうひとつは、FDC(福岡地域戦略推進協議会)が取組んでいる「障がいを持つ子どものバウンダリーを再考する」取り組みのひとつとして、「箱崎もやばこ」という形で、障がい者と一般の段差や境界をなくすためにできることを考える取組みが行われます。これは同級生の斉藤くんが中心で進めています。来られる方々はあまり箱崎を知らないと思うので、ここを拠点にして箱崎の町歩きをしてもらえるマップを作って、昼は町を見てもらい、夜は町を歩いて感じたことを持ち寄って、箱崎がどうなっていけばいいかをテーマにFDCメンバーを中心に話を進めていきます。来てくれた人達が「意外におもしろいね、箱崎」って思ってもらえたら一番うれしいです。独特な廃れ加減をいい味として面白がってくれて、それを見てこの町に住んでみたいとか、事務所かまえたいって思ってくれる人がいてくれたら大歓迎ですね。

D 10年間、デザインニング展に参加してきて思うことはありますか?

先崎 当初はデザインのイメージってもっと知られてなくて固いものだった気がします。その中でデザインで面白いことをやろうと始まったデザインニング展は、次の世代のデザイナーを育ててきたんじゃないかな。10年経つとデザインの価値観って変わるので、10年前にもてはやされたデザインや考え方が10年後も正しいとは限らないし、実際違ったこともたくさんあると思います。”DESIGNING?” というタイトルにingがついているように、進行形で常に変化していくべきもの。せっかく10年続いてきたので、もう10年は、次の世代が続けてほしいなと思いますね。

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ーさいごにー

D 10年後この町はどうなっていると思いますか。

先崎 九大は近代建築の宝庫です。ただ更地にして売却されるのではなく、例えば古い建物の中に海外の美術館が誘致されたり、イノベーションを促すような文化施設やデザインセンターができて、緑がたくさんある森のような文化公園ができてほしいです。商店街も夢のある若い人たちが入ってきて、次の商売のチャンスをつかめるような町になってほしいですね。さらに高齢者や障がい者が楽しく暮らせる町づくりをして、じいちゃんばあちゃんと障がい者の天国になれば面白いなと思います。他には、この通りは結構車が通るんですけど、歩行者優先の道にしたい。大名とか、車道の真ん中を人が堂々と歩いてるじゃないですか。そんな風に。街が自由に遊べる場所になってほしいですね。箱崎は、九大がなくなるこの転換期をチャンスと思って、いろんな人が集まると面白くなると思う。町全体で何かを変えるって難しいけど、箱崎でならできるんじゃないかなあと。これからも流されず箱崎らしい町であってほしいですね。


FUKUOKA AREA MAP | G. 博多・吉塚・箱崎エリア
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