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interview with 春口治彦(ひかり生活デザイン)

デザイニングガイドマップからのスピンオフ企画として、紙面上では伝えきれなかった街や場所の魅力を、デザイニング展サポータースタッフがそれぞれのまちの紹介者にインタビューに伺いました。まちの紹介ページと合わせてお楽しみください。


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「点と点を結び、面をつくりだす」

 interview with 春口治彦(ひかり生活デザイン)

「ひかり生活デザイン」という社名には『生活』を中心に考え、何気ない日々の暮らしにひかりをあて、ささやかな楽しみや幸せを大事にしていきたい、という想いが込められていた。ひかり生活デザイン代表取締役である春口治彦さんは、その理念通り、より良いまちのため、暮らしやすいくらし・明日へのくらしのために働きかけている方である。今回のインタビューを通して、まちの可能性が無限大に感じられた。

取材:白川京紗 川上明奈 撮影:朴虎哲 (デザイニング展サポータースタッフ)


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なぜ薬院周辺という地域でリノベーションという手法を手掛けだしたのか?

10年ほど前は、古いマンションに価値を見いだせていない状況があった。だが、古いビルやマンションをリノベーションして使うことで、新築の物件に住まうよりも割安で経済的にも空間的にもゆったりとした生活ができるという新たな価値観がうまれる。そこには、住まい方の新たな可能性のようなものを感じられた。春口さんは薬院に存在する空き家を、まちにあるなにげないものを「余地」ととらえていた。その余地を生かすことで暮らしやすいまちをつくることができる。さらに、薬院エリアは、商業地である天神からすぐ南側にあるにも関わらず、そこには地域があって人の顔が見える。その点におもしろさを感じたことも、ここ薬院が活動の舞台になった直接の要因であると感じた。
地域の人とのコミュニケーションの場となる「薬院サルー祭り」「薬院てんてん市」はそこから生まれてきたのだ。人が参加することでまちを知ってもらえる、それは、まちの価値を上げることにもなり、薬院に住んでみたいという居住者やお店をやってみたいという店舗を生み出すことへもつながっていった。

ただ不動産・リノベーション・コミュニケーションの場をデザインするのではなく、大切なことは「既存のものを生かす」ということ。コミュニケーションの面で言うならば、薬院てんてん市は店舗さんにある空間の軒先(既存の場)でいらなくなったもの(既存のもの)をフリーマーケットに出すことで、再びそれに価値を見いだす人へと渡る。リノベーションの面でいうならば、現代の世の中は新しいものを作らずとも、ものがあふれている。古いビルやマンション(既存のもの)を使うことで具体的なビジョンが生まれやすいと同時に、一から作るよりも即効性があり、最終的にはしっかりとした実現につながる。常に既存の空間やものに着目して、余地を生かす姿勢は、この10年間変わらないと話してくださった。

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薬院 = 「新しい村」

なぜ、「町」ではなく「村」なのか。それは、「村」という言葉が含む独特の性質が関係していた。村では年に数回祭りが行われ、そのたびに祭りの楽しそうな雰囲気に誘われてどこからともなく人々が集まってくる。強制的ではない連帯感のようなつながりが村には存在するのである。薬院は、いったん町としてインフラや商業施設、ビルなどが整った。だが、そこからダウングレード(ある種のバージョンアップ)を経て、新しい村という新たな地域のあり方を形成しつつある。それは、町が成熟した新しい村であった。


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10年後のこのまちの姿とは?

国際化が進んでいてかつ、子育てがしやすいまち。それは、暮らしやすい町、未来のくらし、明日へのくらし。暮らしやすい町とは、作り手主導ではない住み手主導の住まい作りのことである。また、暮らしやすい住まいは多様なニーズに合わせていく必要がある。子育てをしている人、独身貴族、高齢者、外国人など、それぞれが住まいに求めている要素は違うのである。その多様なニーズに合わせたちょっとした工夫で、これからの住まい観が変わっていくと考えられる。そこには固定的な考え方は存在せず、常にボーダーレスで未来思考の姿勢が必要不可欠なのである。

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まとめ

昔は色や形などの結果を発信流通する場であったデザイニングの取り組みが、現在は思考や価値観を共有する場になっているという変化の流れを、春口さんの取り組みの中にも強く感じた。春口さんは、点と点を結びまたは結ぶきっかけを作り、面を生み出している方である。「既存のものにはまだまだ余地が残っている。」という言葉を頂いたが、春口さんがいることでまちはもっとおもしろくなっていくと強く思うのである。



FUKUOKA AREA MAP | B. 今泉・薬院・平尾エリア
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