TOP - JOURNAL - BLOG - デザイニング展2012にむけて。(1)自走する前に。

JOURNAL

デザイニング展2012にむけて。(1)自走する前に。

昨年のデザイニングで、国連ハビタットの野田本部長をゲストに、「People’s Process」というトークイベントを開催しました。ハビタットがアジア周辺の発展途上国で進める地域復興支援などの事例から、先進国と言われる地域に暮らすボクたちのほうが、学ぶべきことがあるんじゃないか。

ボクが日本の同世代の建築家で、最も問題意識を共有している(と、勝手に思っているふたり、笑)藤村さん @ryuji_fujimura と、坂口さん @zhtsss をスピーカーに迎えて行ったトークイベントは、「これから教育が大切なんじゃないか」というところに、話しが収束しました。

そのトークイベントが終わったときに、鹿児島の福森伸さんが話しをしてくれていたことが、ふと頭をよぎっていました。福森さんは、鹿児島にある障害者支援センター「しょうぶ学園」の施設長をされている方。2010年に福岡の商業施設「IMS」さんと共催でおこなった企画展で、お会いした方です。



はじめて福森さんにお会いするために「しょうぶ学園」を訪れたときに、「進化を促すことだけを”教育”と呼んでいいのでしょうか?」と語り、「ここでの教育とは、”観察する”ことに近いのかもしれません」と教えてくれました。彼らが何をやりたいと思っているか、それを知ることからはじまる、と。

福森さんは元々ラガーマンで、福祉や障害の知識などほとんど持たずに、この「しょうぶ学園」を運営することになったんです。そして、最初のころは「いかに 健常者と同じような働きをできるようにするか」ということを考えて、いろいろと試行錯誤したそうです。でも、全くうまくいかなかったらしく。



そんなときに、松本の民芸家具作家の池田三四郎さんと出会い、民芸の心が「人間力と人の本能の力を育てること」にあると知り、いろいろなことを諒解できるようになったと教えてくれました。

知的障害をもった方々は、長期的なビジョンを描くことは苦手であると言われています。「計画的」に物事を進めることが苦手であると。ボクたち健常者の世界では、逆ですよね?(笑)。即興で何かをやると、たいていの場合、怒られてしまいます。「それはプロの仕事じゃない!」と、笑。

大抵の場合、この社会の中でボクたちは今の辛いことを我慢して「でも、これをこうやって、こうやって、ああやると、賞賛をもらえるかもしれない!」と、あるかもわからない幸せな未来を夢見て、今を犠牲にする(笑)。複雑ですよね、そんなの絶対にストレート(自然)じゃないはずなんです。

で、しょうぶ学園の方たちは、「長期的なビジョン/計画的であること」にはまったく興味がないので(笑)、もれなく、自分たちが「今、やりたいこと、楽し いと思うこと」だけをやっていく。ホントに素直なんです(笑)。でも、その「楽しい!!」の集積でできあがったものの強度は、スゴいんです。

はじめてしょうぶ学園を訪れた日が、たまたまボクの誕生日だったんですけど、その日の午後に福森さんの計らいで、そのお祝いとして、即興で演奏をしてくれたんです。最初はみんなが思い思いに演奏しているんです。いや、「楽器と呼ばれるものを叩いて音をだしている」といった方が近いかも。



でも、そのみんなの前に福森さんが立って、それぞれの音を出すタイミングを少しずつコントロールしていく。そうすると、それまでは、単なる「音」の集合 だったものが、いきない「音楽」に変わるんです。そこにいたデザイニングとイムズの担当者がみんな、大の大人が、涙をこらえるのに必死なわけです。

みんなが「楽しい!!」と思いながら奏でる音の集積がこんなに美しいのかと。これ、触れたことがあるひとなら、わかりますよね? ただごとじゃないのでね。「しょうぶ学園」には、ボクたちが忘れているものが大切に残っていて、健常者であるボクたちこそ、彼らに学ぶべきなんじゃないかと。

なので、今年のデザイニングで、ちょうど1年後にトークイベントをやるとなった時に、しかも「教育」がキーワードになったときに、福森さんしか考えられないワケで(笑)。彼は「自分のことを教育者だと思っていません」といいますが、間違いなく、ボクが最も尊敬する教育者のひとりなので。

当日、どんな話しになるか、いまのところ、ボクにも全くわかりましぇん(笑)。でも、福森さんの考える「教育」や「観察」と、ボクたち若いつくり手が考える「設計」と「計画」の違いと共通点を探ることは、意味があるんじゃないかと思うのです。福森さんがタクトを振る後ろ姿に、それを感じた訳です。

近日中に、昨年のトークイベントの映像をアップします(http://vimeo.com/user7800750)ので、5.11の「自走する社会のつくり方」に参加をする予定の方は、予習として、ぜひチェックしてみて下さいね。今年は定員100名(先着)なので、予約はお早めにー。

txet:Ide